会社が倒産して無職になったブルベアトレーダーの日常

元配送ドライバー業でしたがコロナで会社が倒産しクビになり、時間だけはあるので株のブルベアだけでなんとか食ってます

【異世界冒険ラノベ風5】下級冒険者(非正規社員)がパワハラ魔王に挑んで玉砕するという話-5

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アルバイトごときがちょっとした不毛なパワハラ上司に挑むというノンフィクションです!

前号からの続きで、Part5になります。

できれば先にこちらをお読みいただいた方が話がつながります。

the-kouri.hatenablog.com

 このブログは異世界冒険ライトノベル風に記述されています。

先に言っておきますが、若干読みにくいかも〜です!

 

 


迷宮ダンジョン(本社店舗コールセンター)に潜入して1週間が経過した。


その間は、鏑木以外の30歳前後の正社員たちと一緒に冒険(外出)することも結構あり、耳障りな関西弁を聞く機会が減ったのは嬉しかった。


若い正社員たちは皆んな礼儀正しいし、はっきり言って結構仲良くなった。


小型荷馬車(軽バン)での移動がこんなにも楽しいなんて……このまま1ヶ月過ぎてくれ〜と願う俺の気持ちは簡単に踏みにじられることなる。


ある日の朝、定時に出勤すると、なぜかコールセンター室には鏑木だけしかいなかった。


俺「おはようございます」


鏑木「・・・・・・・・」


もうすでに慣れたが、奴が俺に挨拶することはない……もしかすると小声で言っているかもしれないが、なぜか俺のことを差別しているように感じる。


いつも俺が座る机のところで荷物を整理し、パソコンを開いてスケジュールの確認でもしようとしていたら、鏑木から声がかかった。


鏑木「あんね、田中さん。今日これからアンタと一緒に外出することになっているんだけど、本当はアンタと行きたくないんだよ。他部署の●●さんとか行きたいんだよなぁ……アンタとでは家屋破損とか怖いんだよぉ」


いくらなんでも俺を『アンタ呼ばわり』するのはいかがなものか?


俺「(ん、何が言いたいんだろうか? だったら他部署の●●さんと一緒に行けばいいだけじゃないのか?)」


鏑木は俺に何を言いたいのだろうか?


今日の冒険(外出)内容は『ウッドカーペットを届けて、お客さんの部屋に敷いてくる』という内容だ。


1週間ほど前にお客様宅に届いたウッドカーペットの一部が割れていたため、それを新品と交換するためのクレーム対応である。


ウッドカーペットというのは幅5cmぐらいの木もしくはコルクのカーペットで6畳用と8畳用で長さは異なるが、重くて丸めてあるだけなので、部屋に敷く時には注意が必要である。通常はお客様自身が敷くことになっているのだが、今回はクレーム対応ということで、こちらが作業することになってた。


どうやら鏑木は怒っているような口調だったので、もしかすると俺に注意をしているのかもしれない……俺、なんか悪いことでもしたか?


鏑木「家屋破損が怖いから慎重にやってもらわんと困るんですよ」


・・・それで?・・・だから?


鏑木「僕が指示を出しますから、余計なことをせず指示通りに慎重に作業してください」


もしかして現場に行く前に予め注意をしたということか?


まあ、そういうこともあるだろうよ。でもなんで、「他部署の●●さんと一緒に行きたかったんだよ」というセリフが必要なの? そんなこと俺に言ってもどうにもならないじゃん……あっ、わかった!


鏑木は俺をシメてたんだ!


最近はないだろうと思うけど、昔の中高生の運動部では、よく先輩たちが下級生を集めて「おまえら、最近たるんでるぞ!」と脅すようなことをする行為だ!


もろパワハラじゃねーか!


こいつの性格ならやりそうだな……1ヶ月間限定でヘルプに来た素人で、女性でもなく、自分より年上で可愛げがあるわけでもなく、初日から服装を注意したら反論された俺への印象が良くないので、マウントを取りに来ているのだろう。


ハァ……やれやれだ。


俺は中学生じゃないんだから直立不動で「はいっ!」なんて元気よく返事なんかしてやらんぞ。とりあえず俺は不思議そうな顔をして首を傾げておいた。たぶんそうすることで奴のイライラもMAXになるだろうよ。


そろそろ魔王(本社店舗の店長)にチクったほうがいいかな?


とりあえず俺と鏑木はウッドカーペットを届けて、家屋破損をすることもなく、お客様も笑顔で納得されて帰社することになった。


もしかすると鏑木は「朝一で田中に気合を注入してやったから上手くいったんだ!僕って優秀だなぁ」ぐらいのことを考えているかもしれない……キモいな


   *     *     *


2週間が経過した頃、冒険(外出)から戻ると、冒険者ギルド(コールセンター)のお姉さん(他店舗のパート社員)に呼び止められた。


お姉さん「田中さん、先ほどABC店の店長さんから電話があって、『折り返しをください』って言ってましたよ」


はい、そうですか、何の用かな?


俺はABC店の店長携帯に直接電話をかけた。


俺「お疲れ様です、田中でーす! 何か電話もらったとかで、用件はなんでしょ?」


ABC店長「あ〜、お疲れ様です。調子はどうですか? 大丈夫ですか?」


久しぶりの店長の声を聞いて少し安心したが、相変わらず俺のこと心配してくれるのはありがたいことだ。


店長からの連絡用件というのは、近いうちに健康診断があるので、用紙などをABC店の俺専用引き出しトレイに入れてあるから、早めに取りに来て欲しいとのことだった。


俺「あ〜、了解です。じゃあ今日19時上がりなので、店に寄って行きますよ!」


そう言って電話を切ると、なぜか鏑木からツッコミがあった。


鏑木「そんな店なんか寄らんでええ」


またしても俺には意味が理解できなかった……自分の所属している店舗に用があるから行くんだよ?


俺「……健康診断表があるから取りに行くんですよ?」


鏑木「・・・・・・」


またしても何も言わない……「あ〜、そうでしたか、ABC店の健康診断は今月なんですね」とか言わないのだろうか? これでは会話が成立しないじゃん!


その日の夜、帰りがけにABC店により、とりあえず店長がいたので挨拶に向かった。


ABC店長「田中さん、お疲れ様です。大変でしょう、調子はどうですか?」


まだ2週間しか経過していないが、久しぶりに会った店長を見て正直なところホッとした。


やはりアウエー感のある本社店舗より、圧倒的にABC店の方が居心地が良い。


他のパート社員たちも俺を見かけるとみんな笑顔で「久しぶり〜!元気ぃ〜?」とか言ってくれる……ありがたい話だ。


そんな懐かしい光景に俺もちょっと気が緩んだのであろうか……言うつもりはなかったのだが店長に鏑木という変な奴がいることをつい話してしまった。


ABC店長「あ〜、やっぱり……」


店長は多くは語らなかったが、どうやら鏑木には何か謎があるような口ぶりだった。


   *     *     *


数日後、ABC店の店長が言わんとしていたことがあっけなく判明した。


実は喫煙所で話し込むぐらい仲良くなった本社店舗の方が数名いる。


この喫煙所会談で俺はさまざまな情報を集めることに成功した……いや、勝手に話を聞いただけだ。


予め先に言っておくが、俺はこの話の真実を知らないし確証もないので、どこまでが本当の話なのかは不明である。


Aさん「そう言えばもう慣れましたか……鏑木さんに」


意味深な感じで質問されてしまったが、俺は周りに人がいないことを確認して正直に話した。


俺「ははは、いや〜慣れるわけないじゃないですかぁ〜!」


あまり陰口を叩くのを良しとしていないので、適当に誤魔化しておいた。


Aさん「あの人、いろいろやらかしてるからなぁ〜」


Aさんも周りを気にしながら思いっきり事実を教えてくれた。


鏑木本人からも聞いたことがあったのだが、奴は家具売上全国1位になったことがあるそうだ。それが入社後に研修を終えて配属された本社店舗でのことなのだが、いろいろとおまけがあるとのこと。


基本的に売上上位者は大型店舗に勤務する従業員が圧倒的に多い。そりゃそうだ、店舗の規模が大きく来店客数が違うので、全体の売上が違うのは当たり前だ。ちなみに中型店であるABC店からもたまにだが全国ベスト10に入ることもあるが、これも新規オープン店の強みであり、年月とともに売上上位に入ることが難しくなってくる。


鏑木は配属後の翌月に全国1位になったと自慢していて「あんなの簡単ですよ!」とか言っていたな……で、おまけのことだが簡略的にいうと「他の販売員のお客さんを取った」ということらしい。


これは『接客あるある』なのだが、Bさんという販売員が接客して商品の説明などをしっかりやったあとに、お客さんが一旦売り場を離れることがある。例えば「ちょっと他も見てくる」「また後で来ますね」などということはよくあるケースだ。


このようなお客さんを『エクスカリバー(戻り客)』と言う。


で、お客さんが離れる際に接客担当した販売員の名刺などを渡しておくなどして、お客さんが戻ってきたときはBさんに優先権があるという『暗黙のルール』がある。


マニュアルに書いてあるようなルールではないが、販売員の評価査定のほとんどが個人売上で決まるので、公平を期すためには必要なルールである。


鏑木はその暗黙のルールを破りまくっていたのだ!


他の販売員が接客し、商品説明なども終わっている段階なので時間をかけずにクロージング(発注伝票作成)することができる。最終的にクロージングした人の売上げになるシステムだからな。


ただし、鏑木にも言い分はある。


配属された翌月のことだったので、その暗黙のルールを知らなかったのだ。


鏑木から言わせれば「そんなルールがあるなら最初から言ってもらわんとわからんでしょう」となるのは必然だ……他人を貶め、自分を保身するのは鏑木の常套手段だからな。


問題なのはそのあとだ。


その暗黙のルールを知ったにも関わらず、鏑木は『エクスカリバー(戻り客)』を片っ端から強奪しまくった。


なぜ暗黙のルールを知った後なのに『戻り客』を奪ったのか?


それは、『お客さんが前に接客した販売員の名刺を見せなかったから』と言い切ったそうだ。


さらに「お客さんは前に接客した人が嫌だったんじゃないですかね〜? もっとパートさんたちにはキチンとした接客を指導せなアカンですよ」などともほざいてたらしい。


絶句である!


しかし鏑木という男はけっして馬鹿ではない、間違いなく優秀で姑息でもある。


優秀じゃなければ以前勤めていた某ドラッグストアでエリアマネージャーなど務まるわけがない。

 

姑息じゃければ、他人を蹴落とすことなどできはしない。


Aさんの話だと鏑木は予め複数の家具を必要としている他の販売が接客中のお客さんを確認しておき、『戻り客』になると判断した場合は、エスカレーターとエレベーター周りで張り込んでいた。


購入金額の安そうな客は、他の販売員を無線で呼び出して接客させることにより、自分の手を開けておくという、もうほとんど『超エリートスナイパー』と言っても過言ではない。


そして『戻り客』が来たらすかさずくっつき、先ほど接客してくれた販売員の名刺を出そうとするお客さんを制止、もしくは受け取って廃棄、さらに適当な言葉で誤魔化して自分の売上にする……らしい。


鏑木ぃ〜! あんたスゲーよ!!


俺はいろんな意味で感動したよ……尊敬できないけど。


鏑木の蛮行はまだまだ続く。


つづく。